パターンメイキング工房『オーヴ・モードスタジオ』代表 フリーパタンナー/モデリストのコバヤシ_トシヒコです。
今回の記事は、当方にて作成したスカートの型紙(パターン)と、それをもとに作成した3D CADによるバーチャルトワルのご紹介です。
個人法人を問わず、スカートの型紙作成の依頼をご検討中の方は、ぜひ参考にご覧ください。
今回のアイテム:レディースサイズのフレアスカート
当方ではデザインイラストや仕様書、参考見本はもちろん、写真などの画像データからも型紙作成が可能です。
今回は、Adobe Stockより引用したフレアスカートの写真をリファレンスに、それと同じバランスによる5パーツ構成の工業用パターンを製作しました。
接着芯を貼るベルトパーツは、芯地のパターンと共通としました。
複製防止のため、仕上がり線などの内部線は非表示で、縫い代をつけた裁ち切り線だけを表示させて、型紙通りに生地を裁断した後のような状態にしています。
もちろん、3D CADによるバーチャルトワル画像はパターンの仕上がり線によって組み立てています。
リファレンス画像から、ベルト部分に使用している生地は伸縮性のない布帛サテン生地と想定。
スカート本体は裾に2本針ステッチが入っていることから、カットソー生地と想定。落ち感の強そうな生地でありながらそこまでダレた印象ではないことから裏地を付けることに。
前スカートと後ろスカートを完全な共通パーツとして脇にあきをつくることも可能ですが、バックスタイルのリファレンス画像がないことを利用して、後中心に切り替えを入れてコンシールZIPあきにしました(詳しい理由は後述します)。
今回はリファレンス画像から生地柄を取り込んだため、画像が粗く継ぎ目がわかる状態ですが、実際に使用する生地が決まっていればその生地の高解像度画像から継ぎ目のわからないタイリングを行った上で、より精度の高いバーチャルサンプル画像を作成することが可能です。
縫合後のスムーズなつながりを実現する美しいカーブライン
前後の脇を縫い合わせた時の脇での前ウエストと後ウエストとの繋がり、脇裾での前後裾がスムーズな繋がりとなるような、美しい曲線を描いています。
後身頃のウエストラインは後ろ中心に対して直角のラインをとることで、左右のウエストラインがコンシールZIPを閉めたときにスムーズなつながりとなるように。
後身頃の裾は後ろ中心に対して直角のラインをとることで、左右の後ろ中心同士を縫い合わせたときにスムーズなつながりとなるように。
これにより、360度どこから見ても縫い合わせのつながりがスムーズとなるようにしています。
縫い合わせる部分どうしの地の目を合わせた、型崩れしにくい設計
前脇と後ろ脇、縫い合わせる部分どうしの寸法と地の目を完全に一致させています。
これにより、長期的にも型崩れしにくい製品となるように設計されています。
3D CADでのバーチャルトワル制作による完成イメージの共有
アパレル用3D CAD[CLO 3D] でのバーチャルトワルの制作によって、デザイナーとの完成イメージの共有を可能にしています。
シルエットやサイズバランスの確認はもちろん、柄のある生地を使用した場合の柄の見え方のバランス確認も可能です。
アバターに着用させて、ベルト位置によるスカート丈のバランスを確認
バーチャルサンプルを着せるアバターは、身長はもちろん体型を調整することも可能です。
これにより、身長の違いによる見え方の違いや、ベルト位置によるスカート丈のバランスを事前に確認することができるため、より精度の高いサンプルメイクを可能にしています。
アバターにバーチャルサンプルを着せて、ベルト位置の違いによるスカート丈のバランスを確認。
使用する生地の違いによる留意点
使用する生地の違いによって、デザインの制約と用尺の違いが現れることを留意する必要があります。
それぞれについて解説します。
1.生地幅の違いによるデザインの制約
洋服に使用される生地の生地幅は、広いもの(ダブル幅)は180cm幅や150cm幅、狭いもの(シングル幅)は90cm幅になります。
今回のフレアスカートの前スカートパーツなど、幅の広いパーツがある場合は、そのパーツの幅が使用する生地の幅よりも広くないか確認する必要があります。
今回の前スカートパーツはパーツ幅が103cmのため、生地幅が103cm以上なければ裁断することができません。
生地幅が90cmしかない等、生地幅が狭い場合は
- 切り替えを入れる
- 丈を短くする
- フレア分量を減らす
などによって、生地幅内に収まるようパーツ幅を狭くする必要があります。
2.生地の方向性の有無と生地幅の差による用尺の違い
生地によっては毛並みや柄方向など、生地に方向性がある場合があります。
方向性のない生地は差し込み裁断や1人一方裁断ができますが、生地に方向性がある場合は完全一方裁断をする必要があります。
通常は完全一方裁断のほうが用尺が多くなります。また、パーツの切り替えが多いほうが一般には用尺は少なく済みます。
これに加えて、生地幅の違いによって用尺が変化します。一般的には、生地幅が広いほうが裁断効率(収率)が高く、用尺は少なくなります。
生地幅150cmで一方裁断、後ろ中心で切り替えない場合
一方裁断で後ろ中心に切り替えを入れない場合が、最も用尺が多くかかります。1反50m巻きの生地の場合、1反で41着分を裁断することができます。
(50m÷用尺1.2m≒41着)
生地幅150cmで一方裁断、後ろ中心で切り替える場合
一方裁断で後ろ中心に切り替えを入れる場合は、切り替えを入れないよりは用尺は少なくなります。1反50m巻きの生地の場合、1反で52着分を裁断することができます。
(50m÷用尺0.95m≒52着)
生地幅150cmで一方裁断、2人取りで後ろ中心で切り替える場合
上の例では1人取りで一方裁断をしていますが、2人取りで裁断することでより用尺を少なくすることができます。2人取りで用尺1.65mということは1人分の用尺は0.825mになります。1反50m巻きの生地の場合、1反で60着分を裁断することができます。
(50m÷用尺0.825m≒60着)
生地幅150cmで差し込み裁断、後ろ中心で切り替えない場合
差し込み裁断で後ろ中心に切り替えを入れない場合は、パターンが共通なら一方裁断の場合よりも用尺は少なくなります。1反50m巻きの生地の場合、1反で45着分を裁断することができます。
(50m÷用尺1.1m≒45着)
生地幅150cmで差し込み裁断、後ろ中心で切り替える場合
差し込み裁断で後ろ中心に切り替えを入れる場合が、用尺は最も少なくなります。1反50m巻きの生地の場合、1反で66着分を裁断することができます。
(50m÷用尺0.75m≒66着)
コストを抑えながら、大量の生地ロスが発生することを防ぐサステナブルなデザインと解釈することもできます。
ブランドによっては、こういったことを対外的に訴求することは有効ではないでしょうか?
裏地の生地幅を考慮した、裏地パターンのマニピュレーション
今回のスカート本体は、当方で使用しているスカート原型のウエストダーツを裾に展開し、ウエストラインに対して直角の直線で脇線をとることでフレアシルエットをつくっています。
このようなパターン操作のことを「マニピュレーション」といいます。
裏地の生地幅が90cmなど狭いシングル幅だった場合、前スカートの丈を短くするだけでは生地幅内にパーツが収まりません。
また表スカートの丈を短くするだけでは、表地の落ち感に対して不自然にシルエットが広がりすぎた印象になることも考えられます。
そこで今回は、裾に展開した2本のフレア分量のうちの1本をたたんで再びウエストへと展開しました。
表地の落ち感に対して不自然にシルエットが広がりすぎず、かつ着用して歩いたときの運動機能に影響が出ないバランスで裏地のフレアをとじました。
ウエストにできたダーツをタックに変更し、丈を短くすることで裏地のパターンとして完成させます。
当方で作成する工業用パターンは、縫い代幅が1cmの部分については縫い代の幅を指定するためのノッチを入れないことで裁断工程を軽減、生産性が向上するようにしています。
その上で、2mmのきせを入れる前スカート裏と後スカート裏の脇、後スカート裏の後ろ中心裾はノッチなしで縫い代幅1.2cmに設定することで、1cm幅の縫い代幅で縫い合わせて2mmのきせをかけるようにしています。
ウエストベルトは落としミシン付けすることを想定しています。
そのため、ベルト裏の持ち出し部分は縫い代幅1cmで、その他のベルト裏部分にはノッチなしで1.5cm幅の縫い代を付けています。
パターンの完成度(クオリティー)は情報量に比例する
いかがでしたでしょうか?
実務では生地を決める前にパターンを発注しなければならない場合もあるかと存じますが、それでも使用するイメージに近い生地の情報をパターン発注時に伝えるだけでも、パターンの完成度は向上します。
今回は3D CADによるバーチャルサンプルを使って記事の内容を構成しましたが、実際にはもちろん、シーチング等を使用したトワル作成も承っております。
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